糖尿病神経障害を回避せよ!
-第2回 進行するとどうなる?
糖尿病神経障害の検査と診断
糖尿病の人で、手先や足先に痛みや異常な感覚などがあり、アキレス腱反射(打腱器と呼ばれる医療器具で両側のアキレス腱を叩いて、足先が動くかどうか)で両足とも反応がなければ、ほぼ間違いなく糖尿病神経障害と診断されます。
しかし他にも、脊柱管狭窄症や変形性脊椎症などの整形外科的な疾患や、脳血管障害、悪性腫瘍など他の疾患を鑑別する必要があります。実際の現場では、神経障害の専門家で組織された研究会「糖尿病性神経障害を考える会」の提案する、簡易診断基準が広く普及しています。
●糖尿病多発神経障害の簡易診断基準
必須項目の2つともに該当し、かつ、条件項目のうち2つ以上に該当する場合、糖尿病多発神経障害と診断されます。
[必須項目]
(1) 糖尿病である
(2) 糖尿病神経障害以外の末梢神経障害を否定できる
[条件項目]
(1) 糖尿病神経障害に基づくと思われる自覚症状がある
(2) 両側内くるぶしの振動覚の低下(10秒以下)
(3) 両側アキレス腱反射の低下、あるいは消失
[注意事項]
(1) 糖尿病神経障害に基づくと思われる自覚症状とは、両側性、足指先と足裏にしびれ、うずくような痛み、感覚低下、感覚異常のうちいずれかの症状(冷感は除く)2つ以上あること。ただし上肢のみの症状は除く。
(2) アキレス腱反射は膝立位で行う。
(3) 特に脊椎症の合併に注意する。
(4) 高齢対象者については十分考慮する。
このような診断基準を用いて診断することが多いのですが、この簡易診断基準では、神経障害がある程度進行した例しか発見できないという問題点があります。その他にも神経障害を調べるための検査として以下のものがあります。
●末梢神経伝導速度検査
末梢神経を皮膚の上から電気で刺激して得られた反応を用いて、神経の伝わる速度の測定や、波形の分析をして、診断と治療に役立てる検査です。神経障害が起こると、神経伝導速度は低下します。
●モノフィラメント
モノフィラメントというナイロン製の細い糸を足に当てて、触覚や圧覚を感じる神経の働きを調べます。神経障害を起こしている人は、その感覚が鈍くなります。
●呼吸心拍変動係数
自律神経の働きを検査する方法です。安静にしたときと深呼吸したときの心電図を比較して、脈拍に変動が起きているかどうかを調べるものです。正常では深呼吸したときに脈拍の変動が大きくなりますが、自律神経に障害が起きると、この変動が少なくなります。
次回は、糖尿病神経障害の治療などについて見ていきたいと思います。
著者プロフィール:中井 望(医師)
名古屋市出身。1999年愛知医科大学医学部卒業。2008年東京慈恵会医科大学大学院博士課程修了。医学博士。横浜市立市民病院での研修後、東京慈恵会医科大学附属病院勤務を経て、2005年より東京慈恵会医科大学附属青戸病院 糖尿病・代謝・内分泌内科に勤務。また2009年より東京医薬品臨床開発ビル診療所にて治験担当医師として勤務。専門分野は糖尿病。