糖尿病と治験
-第3回 次世代糖尿病薬[DPP-4阻害薬]
国内外を問わず開発がすすむ、DPP-4阻害薬
シタグリプチンをはじめとしたDPP-4阻害薬は、2006年8月にメキシコで世界初承認されて以来、米国でも2007年から使用され、さらに欧州、アジアの各国を含む世界80ヵ国以上で、のべ1,000万人以上の患者に使用されています(2010年3月現在)。
シタグリプチンだけでなく、ビルダグリプチン、アログリプチン、サクサグリプチン、デナグリプチン、リナグリプチンなど数多くのDPP-4阻害薬の開発が、国内外を問わず進められています。製薬会社の開発意欲の高さからも、その有望性がうかがい知ることができますね。
日本でもこれらのうち、シタグリプチンが1日1回の単独投与による1.0%のHbA1c低下作用が認められて、すでに発売されています(商品名ジャヌビア®、グラクティブ®)。さらにビルダグリプチン(商品名エクア®)もすでに承認されて発売準備中ですし、アログリプチンも厚生労働省へ申請中で、近いうちに承認される見通しです。
副作用も気になるところですが、シタグリプチンの臨床試験(治験)では、8.1%の発現頻度で副作用症状が、4.1%の発現頻度で臨床検査値異常が認められています。主な副作用症状と臨床検査値異常は、低血糖(1.4%)、便秘(1.0%)、ALT増加(1.5%)、AST増加(1.0%)、γ-GTP増加(0.8%)などです。また、特に重篤な副作用として、アナフィラキシー反応、皮膚粘膜眼症候群、剥離性皮膚炎、低血糖症が挙がっています。
そのほか、DPP-4は体内でGLP-1以外の他の活性ペプチド(たんぱく質)も分解しているため、DPP-4阻害薬を長期で使用した場合、これら活性ペプチドの血中動態の変化が起こる可能性があると指摘されているのですが、それによる副作用についてはまだ明らかになっていません。
しかし、医師が処方してその後の経過を観察しますので、こういった副作用をいたずらに不安に思う必要はなく、何か反応があったら、すぐに医師に相談するといいでしょう。
それよりも、やはりその効果に期待が高まります。実は、このDPP-4阻害薬やGLP-1受容体作動薬といったインクレチン薬は、欧米人(白人)よりも、むしろ日本人の糖尿病に向いていると考えられるのです。というのは、日本人の糖尿病患者は白人と比べると、インスリン抵抗性は軽微ですが、食後すぐのインスリン分泌が不足しているという特徴があるからです。
インクレチン薬が、食後すぐのインスリン分泌を高めてくれれば、既存の糖尿病薬では効果の薄かったところを補うことになり、今後、糖尿病の治療において大きく貢献する可能性があるのです。
次回は、これも糖尿病の新薬として期待されているSGLT2阻害薬について解説します。
著者プロフィール:井上 聡(医師)
1992年大阪大学医学部卒業。大阪大学医学部附属病院、大手前病院、市立豊中病院を経て、2007年より医療法人平心会 OCROMクリニックに勤務。専門分野は消化器内科。