糖尿病と治験
-第4回 次世代糖尿病薬[SGLT2阻害薬]
尿糖が出ても大丈夫なんです、SGLT2阻害薬の作用と副作用
さて、糖尿病の検査所見のひとつに、尿糖があります。
糖尿病になると、血液中にブドウ糖が増え血液中からあふれ出た分が尿に出てしまう、つまり血液中でも尿中でもブドウ糖が多い状態です。
実は、SGLT2阻害薬の作用によって尿糖値は上昇してしまいます。しかしこの場合は、血液中に再吸収されるはずだったブドウ糖をSGLT2のはたらきを抑えることで、そのまま尿として排泄させるため、血糖値は上昇しないというわけなのです。
また、SGLT2阻害薬の作用により高血糖による種々の障害を改善することができます。さらに血糖値の低下によって疲弊したすい臓ランゲルハンス島β細胞の負担を低下させ、分泌能力を回復させることも可能です。
その他にも血糖改善により糖毒性を改善することで、インスリン抵抗性改善作用を示すことも認められています。
実際、SGLT2阻害薬を糖尿病モデルマウスに投与した結果、血糖値が下がり、インスリン分泌能も回復し、合併症も改善することが確認されています。
気になる副作用ですが、実は家族性腎性糖尿病の患者さんではSGLT2遺伝子の変異が確認されていて、SGLT2がもともと機能していない状態、つまりSGLT2阻害薬を服用しているのと同じ状態といえます。このような患者さんの病態として、尿糖が出たものの血糖値は正常で、低血糖や血液量減少の傾向をともなうことは極めて稀で、尿糖の量が増加した以外に異常は認められていません。
また、現在腎臓以外でSGLT2が高発現している臓器は確認されていません。そのため、低血糖症状を含めた重篤な副作用が出現する可能性は低いと考えられています。
ただ、SGLTの発現が血液や尿などの水輸送活性と結びついていることが分かってきていますので、SGLTを阻害することで、多尿やそれに伴う脱水症状をもたらす可能性もあり、今後の検討課題となっています。
このようにSGLT2阻害薬は新しいタイプの糖尿病治療薬として期待されていますが、海外を含めてまだ市場に出たものはありません。現在、国内外を問わず臨床試験(治験)が実施され、安全性、有効性についてより多くの症例の集積が進められているのです。
著者プロフィール:井上 聡(医師)
1992年大阪大学医学部卒業。大阪大学医学部附属病院、大手前病院、市立豊中病院を経て、2007年より医療法人平心会 OCROMクリニックに勤務。専門分野は消化器内科。