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要注意!糖尿病予備軍

-第5回 耐糖能異常 おさらい

耐糖能異常 ― おさらい2

ここで、糖尿病の真の危険性とも言える、合併症について考えてみましょう。
糖尿病の慢性合併症は、血管系障害が大きな原因と考えられています。ですから、血管系障害の進行を防ぐことは、慢性合併症の改善において重要な意味を持っています。血管障害によって生じる慢性合併症は侵される血管の太さにより、細小血管症と大血管症の2つに大別されています。

細小血管症は、
●小動脈や毛細血管の病変によるもので
●糖尿病患者によく見られ
●代表的な疾患は、3大合併症と呼ばれる網膜症・腎症・神経障害
です。

大血管症は、
●動脈硬化によるもので
●冠動脈病変による虚血性心疾患(狭心症、心筋梗塞)
●脳動脈硬化による脳梗塞(ラクナ梗塞など)
●下肢末梢動脈硬化による閉塞性動脈硬化症(ASO)
があります。

HbA1cの悪化が長期間だと、細小血管症が悪化して網膜症・腎症・神経症の危険性が高まり、血糖値が200mg/dL以上だと、大血管症が悪化して心筋梗塞や脳梗塞の危険性が高まると言われていますので、それぞれに注意が必要です。

耐糖能異常の治療方法は、基本的には糖尿病の治療法と同じく食事・運動・薬物療法ですが、治療の目標が少し異なります。
糖尿病治療の目標は、糖尿病の合併症の発症・増悪を防ぎ、健康者と同様な日常生活の質(QOL)を保ち、健康者と変わらない寿命を全うすることです。これに対して、耐糖能異常の治療目標は糖尿病にならないようにすること、そして合併症を予防することです。

食事療法のポイントは、
●決められた分量内で必要な栄養素をバランスよく摂ること
●塩分をひかえること
●食物繊維を多めにとること
●お酒・甘いもの(お菓子・果物・清涼飲料水など)をひかえること
この4点です。

運動療法は、
●医師の指導にしたがって
●有酸素運動(ウォーキング・ジョギング・水泳・サイクリングなど)
●日常生活に取り入れる
というのがポイントです。

運動療法を効果的に行うには、
●食後1時間くらいに開始して20~60分程度持続する
●できれば毎日、少なくとも週3~5日間、継続的に運動する
ことが大切です。

食事・運動療法を中心とした生活習慣の改善だけで十分な効果が得られなかった場合は、薬による治療を行います。
最近では耐糖能異常の段階で薬物療法をすることで糖尿病の発症を抑制できると、その効果が認められるようになってきました。ただし、現時点で耐糖能異常の場合に保険が適用される薬は限られています。また、薬の服用中も食事・運動療法を続けることが大切です。


糖尿病はかなり悪化するまではなかなか症状が出ません。これは逆に言うと、症状に気づいた頃には病状は深刻な状態であるということです。例えば狭心症では、糖尿病が悪化したために典型的な症状が出ず、そのせいで発見が遅れたという人もいます。

そういった危険を避けるという意味でも糖尿病の前段階で病気を発見し、進行しないようにすることが大切です。脅かすわけではありませんが、糖尿病の合併症は、失明したり手足の指を切断することになったりなどと、日常生活を阻害することが多々あります。

日本は世界でも有数の長寿国と言われています。これも検診などでの病気の早期発見、早期治療が行われているからでしょう。健康で長生きするためにも、危険性があるという人は必ず、そうでない人も定期的に検査を受けて、ご自身の体の状態をチェックしてください。

 

著者プロフィール:前川 佳敬(医師)
2000年島根医科大学医学部卒業。大阪大学医学部附属病院、渡辺医学会桜橋渡辺病院勤務等を経て、2005年より医療法人平心会 大阪治験病院に勤務。専門分野は循環器内科。

 

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