糖尿病と目の合併症
-第5回 糖尿病網膜症の治療
注射による治療
トリアムシノロンのテノン嚢(のう)下注射
テノン嚢(のう)とは眼球の外側にある部位で、ここに注射します。トリアムシノロンのテノン嚢下注射は、網膜症そのものの予防や治療というよりは、前ページでも触れたように、網膜症から生じる黄斑浮腫に対して行う治療です。
ベバシズマブの硝子体内注射
そしてベバシズマブの硝子体内注射。これは水晶体後方の、水分からなるゲル状の硝子体という部位にこの薬を注射します。
このベバシズマブという薬剤の現在認可されている使用方法は大腸がんの治療です。
「網膜と大腸?」と思うかもしれませんが、この薬剤には、がん細胞に栄養を送る新生血管ができるのを防ぐ働きがあります。新生血管の発生には、血管内増殖因子(VEGF)というサイトカインが深く関係していて、ベバシズマブはこのVEGFを阻害する抗体として作用します。
ベバシズマブの硝子体内注射は、「レーザーや硝子体手術では改善しなかったものでも有効であった」という報告が国内外でされ、眼科への応用が未認可にもかかわらず、全世界で急速に使用が広がっています。
全身投与での副作用はさまざまな報告がありますが、網膜症に対しては全身投与時の80分の1の量であり、大腸がん治療と違い血管内投与ではないので、重篤な副作用は報告されていません。
ただし、この治療で網膜症に明らかな効果が出たとしても完治するケースは少なく、症状が再発して何度も注射することもよく経験します。
著者プロフィール:井上 慶子(医師)
2001年鳥取大学医学部卒業。豊中病院、西淀病院、西眼科勤務(いずれも大阪府)を経て、2012年4月より医療法人 光輪会 さくらクリニックにて管理医師、2013年8月より医療法人愛成会 理事就任。専門領域は眼科。日本眼科学会、日本眼科手術学会所属。