糖尿病と目の合併症
-第1回 目の合併症はこんなにある
合併症:発症頻度が10%以下のもの
屈折・調節異常(発症頻度:2~8%)
急激に血糖コントロールを改善したときにときどき見られるのが、この屈折・調節異常です。一過性の遠視になったり、調節が悪くなり、近見障害が起こったりします。
この場合、血糖値の安定化とともに元の状態にもどることがあるので、眼鏡の変更などはしばらく見合わせ、しばらくは経過観察を行います。
緑内障(発症頻度:3~5%)
糖尿病で血流が悪くなると、網膜のほかに虹彩(黒目をのぞきこんだ時の茶色いドーナツ状の部分)や、隅角という目の中の水の通り道にも新生血管が出現します。この水の通り道を新生血管で遮断されてしまうと、眼圧が上がり出し、緑内障が発症します。
緑内障がひどくなると、この新生血管を枯れさせるため眼の周囲を冷凍する毛様体破壊手術をすることもあります。しかし、この手術によって正常な組織も同時に傷つけられますので、治療によってさらに眼が見えにくくなることもあります。
虹彩毛様体炎(発症頻度:1~5%)
目の中で炎症が起こり、物がかすんで見えたり充血を起こしたりします。
比較的、治療に反応しやすく予後は良いのですが、再発することもあります。
視神経症(発症頻度:0.2~0.3%)
比較的突然の視力・視野障害が起こります。
視神経の軽い炎症の程度であれば、予後は比較的良いため数ヵ月で治ることもありますが、視神経を栄養としている血管が閉塞するような虚血型の場合、元通り見える状態に戻らないことも珍しくありません。
眼筋麻痺(発症頻度:0.2~0.3%)
ある日突然、眼球を動かす筋肉が麻痺して目が動かなくなり、物が二重に見えたりします。
この症状が糖尿病の発見のきっかけになることもあります。
数ヵ月で自然治癒することも多いですが、どうしても治らなかった場合は手術が必要になります。
残念ながら、医学は万能ではありません。
こうした合併症は、かなり進行してからでは治療が難渋します。その結果、視力回復につながらないということもしばしば経験しています。
ですから、糖尿病の皆さんの目を守るために、血糖コントロールをはじめ全身的な管理がとても大切だということを、改めて意識していただきたいと思います。
このコラムを通して皆さんが目の合併症を意識するようになり、その予防に必要な「血糖コントロール」のための食事・運動・薬物療法をきちんと続ける動機づけになれば幸いです。
著者プロフィール:井上 慶子(医師)
2001年鳥取大学医学部卒業。豊中病院、西淀病院、西眼科勤務(いずれも大阪府)を経て、2012年4月より医療法人 光輪会 さくらクリニックにて管理医師、2013年8月より医療法人愛成会 理事就任。専門領域は眼科。日本眼科学会、日本眼科手術学会所属。