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Come On! 糖尿病教室

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-第23回 肥満になりやすい遺伝子

ハイブリッドな遺伝子の日本人

さて、欧米ではBMIが30の高度肥満で肥満と線引きされるのに対して、日本人はBMIが25とちょっと太ったくらいで肥満と呼ばれます。この差はどこにあるのでしょうか?実はこれには、農作中心で生きてきた日本人と、牧畜など肉中心の食生活を送ってきた欧米人の遺伝子の差が大きく関わっています。

日本人は、周囲を海に囲まれ、豊富な海洋資源と春夏秋冬という四季のある風土の中で主に農作(稲作)文化で生活してきました。牧畜に比べ、稲作は天候の変化を大きく受けるため、作物の実りの悪い飢饉をたびたび経験します。そのため飢饉で食べるものが少なくなっても生きていける、倹約遺伝子が備わっています。日本人に多く見られる倹約遺伝子のうち代表的なものをご紹介しましょう。

β3アドレナリン受容体の倹約型

交感神経の働きが活発になると、アドレナリンが分泌されます。白色脂肪細胞の表面に存在するβ3受容体にアドレナリンが結合すると、細胞内に蓄えていた中性脂肪分解が進みます。また褐色脂肪細胞の受容体にアドレナリンが結合することで、体内での熱産生が行われ、消費エネルギーが増加します。日本人の約34%が、β3アドレナリン受容体が倹約型であると認められ、これだけで毎日200Kcalの倹約に相当すると言われています。
 

脱共役蛋白1(UCP1)の倹約型

β3アドレナリン受容体に交感神経の伝達物質であるノルアドレナリンが結合すると、褐色脂肪細胞内のATP合成と細胞の役割としての熱産生が行われます。熱産生はUCP1の作用に依存し、外的刺激に応じてその機能が発揮されます。白色脂肪細胞のミトコンドリアにはこのような機能はありません。UCP1は体熱産生の調節に重要なものですが、日本人の24%にUCP1の働きの低下が認められ、これも毎日100Kcalの倹約に相当するとされています。

このような倹約遺伝子を持つハイブリッド型の日本人は、現代のような飽食の時代には、カロリーの過剰摂取に対して免疫ができていないため、多くの中性脂肪を蓄えてしまうのです。
中性脂肪は白色脂肪細胞に貯蔵されますが、皮下脂肪として蓄える能力には人種による差が見られます。白人は皮下脂肪として蓄える能力が高く、アジア人はその能力が低いです。

中性脂肪を皮下脂肪に貯蔵できなくなると、余剰の中性脂肪が内臓脂肪として蓄えられてしまいます。通常、空腹や飢餓状態の時には、体の中にある中性脂肪を分解することでエネルギーを得ます。内臓脂肪は合成や分解速度が速く、大量の分解産物である遊離脂肪酸が、腸間膜の血管を通して肝臓の中に流れ込んでしまいます。肝臓への遊離脂肪酸の流入は、インスリンの働きを邪魔するためにインスリン抵抗性となり、糖代謝や脂質代謝、血圧にも悪影響を及ぼします。

アジア人は小太りでも内臓脂肪を蓄積しやすく、高血圧症や脂質代謝異常、糖尿病などを発症しやすいため、日本人のBMI基準は欧米に比べ厳しい基準となっているのです。

次回も肥満に関連して、皮下脂肪と内臓脂肪、特に悪者の脂肪である内臓脂肪型肥満について詳しくお話をします。

 

著者プロフィール:小宮山 恭弘(糖尿病療養指導士)
1988年 行岡医学技術専門学校臨床検査科卒業。2001年より大阪鉄道病院にて糖尿病療養指導士として勤務。2015年3月 大阪市立大学大学院 生活科学研究科卒業。博士(生活科学)。

 

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