糖尿病の治療薬
-第3回 ビグアナイド薬(BG薬)
ビグアナイド薬(BG薬)の歴史
糖尿病の治療薬 第3回は、ビグアナイド薬(BG薬)について、詳しく説明していきます。
BG薬は、古くから糖尿病の治療に利用されている歴史のあるお薬です。その歴史なしにBG薬は語れませんので、まず、BG薬の歴史から見てみましょう。
時は中世ヨーロッパの時代までさかのぼります。
ヨーロッパにおいて湿地や低地に分布する多年草マメ科の植物であるガレガソウ(別名:フレンチライラックあるいはゴーツルー、学名:Galega Officinalis L.)は、多尿や口渇などの糖尿病症状を緩和する作用があることが知られていました。
1918年、エール大学病理化学の C. K. ワタナベによりガレガソウの抽出物である「グアニジン」に血糖降下作用があることが報告されました。しかし、グアニジンそのものは毒性が強く、そのままではお薬として使用できませんでした。
1926年、フランク.Eらはグアニジン化合物の「ジンタリン」を開発しましたが、これも肝臓に対して毒性が認められ、その後開発は中止されてしまいました。
1950年代後半になると、グアニジン誘導体である「フェンホルミン」、「ブホルミン」、「メトホルミン」の3つのビグアナイド系薬剤が相次いで開発され、糖尿病治療薬の第一選択薬として広く使用されるようになりました。
日本においては、1954年にフェンホルミンが、1961年にはメトホルミン(メルビン®)も発売されました。
しかし、1977年に米国でフェンホルミンでの重篤な副作用、乳酸アシドーシス(詳しくは後述)が続いたため多くの国々で発売が中止され、これを契機に、BG薬は糖尿病治療薬の第一選択薬としての座を引きずり下ろされることとなります。
日本でも、1977年以降メトホルミンとブホルミンは投与量が制限され、「SU薬が効果不十分な場合あるいは副作用等により使用不適当な場合」と条件が付けられたことにより、使用頻度は少なくなっていきました。
1980年代後半になるとBG薬のメカニズムの解明が進み「メトホルミンの再評価」が行われ、1993年にはメトホルミンがヨーロッパで糖尿病に対する第一選択薬に位置づけられました。
また、1995年にはメトホルミンがアメリカで再承認されたことで、再び注目されるようになりました。
その裏付けとなった決定的なことは、1998年のイギリスでの大規模臨床試験であるUKPDS(United Kingdom Prospective Diabetes Study)により、メトホルミンは、「肥満の糖尿病の人々で、SU薬と同じくらい有効であり、体重の増加や低血糖の発症が少なく、心筋梗塞などの糖尿病に関連した死亡を大きく減少させる」ことが報告されました。
さらに2002年の米国での大規模糖尿病予防プログラム(DPP:Diabetes Prevention Program)により、「生活習慣改善群、メトホルミン群ともに性別、人種・民族によらずほぼ一定に糖尿病発症を予防または遅延させる効果がある」ことがわかりました。
現在、メトホルミンの日本での最大承認用量は750mg/日であるのに対して、海外では2,500~3,000mg/日も使用されています。
前述のいずれの研究も1,500mg/日以上使用された結果ですので、もし日本においても1,500mg/日あるいはそれ以上の用量が使用可能になれば、他の薬剤に匹敵する効果を持つ上に他の薬剤に比べて非常に安価で医療経済上も大変優れているメトホルミンは、ますます使用されていくことが予想されます。
こうした海外での実績を踏まえて、日本でもメトホルミンの臨床的意義が見直され、2009年5月、「SU薬が効果不十分な場合あるいは副作用等により使用不適当な場合」と限定されていた条件が変更され、承認されました。これにより、食事療法・運動療法のみで行っている方にも単独で使用できるようになり、日本でも2型糖尿病治療の第一選択薬としての使用が可能になりました。
また、現在も高用量での治験が進められていますので、近い将来、日本でも高用量の使用が承認される日が来ることでしょう。