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糖尿病の治療薬

-第11回 インスリン療法-その6

低血糖症、その症状と原因は?

今回はインスリン療法の最終回として、インスリン療法の際の副作用として、最も注意する必要があり、かつ十分に理解しておくべき低血糖症について説明していきます。

低血糖症とは、血糖値が低くなりすぎることにより、症状が現れた状態のことをいいます。糖尿病治療薬は血糖を下げるために使用されますので、血糖値が低くなりすぎることにより発現する低血糖症の副作用には、十分に注意する必要があります。これはインスリン療法に限らず経口剤を含む糖尿病治療薬すべてに当てはまることですが、特に注射量の微調整により厳格な血糖コントロールを行うインスリン療法では、避けては通れない副作用といえます。

日本糖尿病学会の糖尿病診療ガイドラインによると、血糖コントロールの範囲と評価は、空腹時血糖値が80~110mg/dL未満で「優」とされていますので、その領域をめざして治療が行われます。一般的に、血糖値が70mg/dL以下になると低血糖症状が発現するといわれますが、常に高血糖状態の方は、それよりも高い血糖値で症状が現れてくる場合がありますので注意が必要です。

では、低血糖の状態になると、体内ではどのような反応が起きているのでしょうか。
人の体において分泌される様々なホルモンのうち、血糖を下げるホルモンはインスリンのみですが、逆に血糖を上げるホルモンは、すい臓からのグルカゴン、副腎からのアドレナリン、脳内からの成長ホルモン、コルチゾールと複数あります。

脳が低血糖状態を察知するとこれらの血糖上昇ホルモンが放出されて、血糖値を正常レベルに保ちます。このように低血糖に対する防御システムがいくつも備えられているということは、低血糖が生体にとっていかに生命の危機に直結しているものであるかがうかがえます。

血糖値が60~70mg/dL程度に下がると、発汗、手足のふるえ、不安感などの症状が現れます。これは血糖上昇ホルモンのうちアドレナリンによる交感神経刺激症状であり、低血糖に対してからだが発する警告信号なのです。

そして血糖値が50mg/dL程度になると、疲労感、脱力感、集中力の低下といった中枢神経の働きが低下し、血糖値が40mg/dL程度で冷や汗、動悸、めまい、頭痛といった症状も現れ始めます。
さらに血糖値が30mg/dL以下の重度の低血糖になると、脳への糖の供給が不足し、錯乱、異常行動、意識消失などが起こり、長引くと、けいれん、失神、昏睡に陥り、死に至ることもあります。ただし、これらの血糖値と発現する症状・時期には個人差がありますので、必ずしも上記の血糖値と発現する症状は一致しない場合があります。

また通常は、自覚症状が現れた時点で糖分を摂取するなどして対応できますので、死までに至ることはまずありません。ただし、慢性的な低血糖がある場合は、低血糖に対して体が慣れてしまい、血糖の閾値(いきち)が低下、つまり低血糖に対する反応性が低下してしまって、低血糖状態になっても何の症状も自覚しないということがあります。

そうなると、さらに低血糖が進んでいきなり意識が無くなり、昏睡状態になるというケースもあります。このような低血糖は「無自覚低血糖」といわれ、一度、低血糖になると低血糖の自覚が鈍くなり、血糖上昇ホルモンも分泌しにくくなります。

しかしながら、低血糖を回避し、血糖値をできるだけ正常にしていくことで、低血糖に対する反応性は回復するといわれていますので、慢性的な低血糖がある場合は、速やかに治療を受けて低血糖を認識する血糖の閾値を上げ、低血糖に対する危険を予防しておくことが重要です。

低血糖症の原因は、主に次の4つが挙げられます。

●食事摂取量の不足・食事摂取時間の遅延
食事を抜いたり食事の量が少なかったりすると、補う糖分の量が減りますので低血糖を起こしやすくします。また、血糖降下作用がすぐに発揮される速効型、超速効型、混合型のインスリン製剤を注射した後に、すぐに食事をとれなかった場合にも低血糖が起きることがあります。インスリン治療をしている方で、低血糖になるもっとも多い原因が、食事のとり忘れによるものです。

●運動過多
運動することでエネルギー(=糖)が消費されますので、普段よりも多く運動した場合や急に激しい運動をした場合にも低血糖が起きやすいです。ですから普段より多く運動する場合は事前に指示カロリー以外の捕食をとり、空腹で血糖が低い状態のときには激しい運動は避けるといった予防策が重要です。
また、運動によりインスリンの効き目がよくなり、かなり時間が経った後でも低血糖を起こすこともありますので、激しい運動をした日は、一日低血糖に対する注意が必要です。

●不適切なインスリン注射
インスリンの種類や量を間違えたり効き目がないと勝手に判断して、インスリンの量を増やしたときや、注射部位を揉んだりするなどの不適切な使用によって低血糖を誘発します。

●アルコール過飲
アルコールは、肝臓に蓄えられている糖の放出を妨げますので、アルコールの飲みすぎには注意が必要です。

いずれにしましても、低血糖が起きたら、その原因をはっきりさせ、その後のインスリン治療に生かすことが最も重要です。必ず主治医に低血糖が起こったことを報告し、その後の食事や運動およびインスリン注射の量などの変更について指示を受けてください。

 

 

 

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