糖尿病の治療薬
-第18回 糖尿病治療薬の飲み合わせ-その4
糖尿病治療薬とタバコの相互作用
それでは、実際に糖尿病治療薬とタバコの相互作用について具体的に見ていきましょう。
タバコとの相互作用が懸念されている糖尿病治療薬は、インスリンが挙げられます。
これは、ニコチンによって末梢血管が収縮し、インスリンの皮下からの吸収が減少するためと言われ、実際に1型糖尿病(インスリン依存型糖尿病)でヘビースモーカーの人の場合は、非喫煙者に比べ15~30%程度のインスリンの必要量が多くなると報告されています。
また、タバコの煙に含まれる有害物質のひとつである「多環式芳香族炭化水素」は、肝臓のある薬物代謝酵素を誘導するため、この酵素によって代謝される薬は、通常よりも速く分解されて排泄されてしまいます。つまり、喫煙によって薬が効かないという現象が起きてしまいます。
ちなみに、この喫煙による薬物代謝酵素の誘導(代謝の促進)は、前回触れた、グレープフルーツによって分解する薬物代謝酵素の働きが阻害されて薬の成分の血液中濃度が上昇し、作用が強く現れる現象と真逆の現象です。
今のところ、糖尿病治療薬とタバコで誘導される薬物代謝酵素との相互作用については明らかに問題となっている薬剤は報告されていません(2011年8月現在)が、糖尿病以外の薬では複数報告されています。
代表的なものは、喘息の治療薬であるテオフィリン製剤、高血圧治療薬であるプロプラノロール、解熱鎮痛薬であるアセトアミノフェン、胃潰瘍治療薬であるシメチジン、麻薬性鎮痛剤であるペンタゾシン、精神安定剤であるジアゼパムなどです。
いずれも、喫煙によって誘導される薬物代謝酵素によって分解が促進され、効果が減弱するといった報告があります。
このような薬とタバコの相互作用は、タバコを吸っている本人だけの問題だけではなく、周りの人への影響、つまり受動喫煙による影響も同様です。
タバコの煙は、喫煙者が吸い込む「主流煙」よりも燃えているタバコから立ち昇る「副流煙」の方が有害物質の発生が多く、中には主流煙の数十倍にのぼる有害物質もあるのです。副流煙の受動喫煙によって、周りの人にも薬物代謝酵素の誘導が起こり、薬との相互作用を引き起こしてしまいます。
飲酒やタバコなどの嗜好品は長年続けていることも多く、なかなか止められないものですよね。
けれども、喫煙をしているご本人はもとより家族など周りの人にも薬の効果に悪影響を及ぼすということも視野に入れ、今後の喫煙について考えてみてはいかがでしょう。
次回は、糖尿病治療薬と食品との相互作用について見ていきたいと思います。
著者プロフィール:木元 隆之(薬剤師)
1998年インクロムの提携医療機関に入職。約7年の治験コーディネーター(CRC)の経験を経て、現在、治験事務局長を務める。