糖尿病の治療薬
-第6回 インスリン療法-その1
インスリン療法の適応-1
インスリン療法は、血糖値を下げるホルモンであるインスリンを注射で直接補う治療法です。インスリン療法を適応とする(必要とする)ケースは大きく分けてふたつあります。
ひとつは、インスリン療法が日々の生活に絶対に必要な場合、つまりインスリン療法なしでは生きていけないケース(絶対的適応)。そして、もうひとつは、インスリン療法を行わなくても直ちに生命に関わることはないが、血糖コントロールのために必要なケース(相対的適応)です。
【絶対的適応】
①1型糖尿病の場合:
自分でインスリンを作り出すことのできない1型糖尿病の場合は、外部から補うインスリン療法が必須です。
②糖尿病性昏睡(ケトアシドーシス昏睡※1、高血糖高浸透圧性昏睡※2)を起こした場合:
糖尿病性昏睡とは、インスリンが極端に不足することで起こる症状であり、放っておくと生命に関わる事態になる危険な合併症のひとつです。主に1型糖尿病の方に起こりやすい急性の合併症で、医師から指示されたインスリン注射を急に減らしたり、中断することで発生します。
これらの病態では速やかにインスリンの投与が必要です。
※1 ケトアシドーシス昏睡:インスリンが極端に不足すると、ブドウ糖をエネルギーとしてうまく利用できなくなります。その状態になると、ブドウ糖の代わりに体に蓄えられた脂肪を分解してエネルギーを作り出します。このときに「ケトン体」と呼ばれる酸性の物質が発生してしまい、このケトン体が血液の中に増えてたまってしまうと、血液が酸性になる「ケトアシドーシス」の状態になります。ケトアシドーシスの状態になると、体のいろいろな機能が低下し、脳細胞への酸素の供給もなくなっていくため意識がなくなる「昏睡」の状態になってしまうのです。
※2 高血糖高浸透圧性昏睡:2型糖尿病の高齢者に多く認められる症状であり、高血糖により脱水症状が現れ、この脱水症状が長く続くと血液が凝縮して浸透圧が上昇します。それにより、錯乱状態・けいれんなどが起き、放っておくと昏睡に至ります。特に高齢者の場合は神経が鈍くなって、のどの渇きに気がつかないということがあるため、脱水症状が加速して昏睡に至りやすくなります。
③経口糖尿病薬で薬物アレルギーなどの副作用が出る場合:
経口糖尿病薬が使用できず、インスリン療法が必須となります。
④肝臓や腎臓に重度の障害がある場合:
肝臓・腎臓における薬の代謝(分解)・排泄が妨げられるため、薬の効き目が強く出たり、副作用が出現しやすく危険な場合があります。このような場合、インスリンが使用されます。
⑤重度な感染症(肺炎、腹膜炎など)の場合:
糖尿病の方は、感染症にかかりやすいことが知られています。そして、感染症にかかると、インスリンを効きにくくする物質が増え、血糖値がより上昇しますので、糖尿病の状態を悪くしてしまい、感染症をさらに進行させてしまいます。このような場合には、感染症が治るまでの間、インスリンで治療を行います。
⑥大きな怪我による手術(全身麻酔が必要なときなど)を受ける場合:
手術そのものがストレスとなり、糖尿病を悪化させる場合があります。大きな手術の場合は短時間での血糖コントロールが必要になるため、インスリンが使用されます。
⑦妊娠時の血糖コントロールが悪い場合:
妊娠中の高血糖は母体のみならず、胎児にも影響を及ぼしますので、妊娠中は厳格な血糖コントロールが求められます。経口糖尿病薬は、胎盤を通過して胎児に影響してしまいますので、食事(運動)療法で十分な血糖コントロールが出来ない場合には、インスリンが使用されます。
⑧静脈栄養時の血糖コントロールの場合:
十分な栄養を投与するために高濃度のブドウ糖が含まれていますので、血糖値が上がってしまいます。そこで血糖コントロールのために、インスリンが用いられます。